今、自分のものとなった数々のテクニック、そして開発してきた化粧品は、失敗がなければ生まれてこなかったからです。代わりがいないと思えばやりきれる二一歳でフリーとして働き始めてから、二回ほど仕事を離れた期間があります。ひとつめのブランクは結婚し、出産をして、子育てに専念していた時期。もうひとつが母の介護をしていたときです。プライベートを理由に数回仕事を断ると、とたんに干されてしまうのがフリーランスの立場。仕事の依頼が来たら、介護をしていることは一切口にせず、「ちょっと今は忙しくて」とスケジュールを口実に断るようにしていました。プライベートを仕事にもちこむのは私にとってご法度。現場の仕事を始めたときも親の死に目には会えないと覚悟していましたし、親より現場の仕事優先が当たり前の世界。なぜなら、その日、そのカットが勝負で創り上げていく映像の仕事は、今日休んで明日挽回するという調整がきかないためです。監督、俳優、照明、音声、技術の誰が欠けても撮影は不可能。ヘアメイクも、映像の現場に私の代わりはいません。そのとき、その瞬間が勝負の仕事である以上、休めばみんなに迷惑をかけることになる。だから四〇度の熱があっても、肋骨にヒビが入っても、現場を休んだことはありません。自己管理は基本中の基本という世界です。よしんば風邪をひいてマスクが必要なときも、「アレルギーがあって、今日はどうも埃に刺激されてしまって」と言うのが鉄則。風邪をひくのは健康管理がなっていない証拠、自分で健康管理すらできない人間は、それだけで一人前ではないとみなされてしまう。一人前じゃない人間に、いい仕事ができるわけがない。これが現場の論理なのです。